一般に、スポーツなどにより靱帯、腱、筋肉に過伸展力などの微外傷が繰り返し加わり慢性の疼痛を生じる疾患群を特にスポーツ障害と呼びます。
骨折や靱帯断裂のように構造が完全に破綻し機能不全に至っているものは少なく、その多くはオーバーユース症候群(使いすぎ症候群)であります。
しかし、この状態を放置し、無理なスポーツを続けていると、靱帯断裂などのスポーツ外傷に陥ってしまうことがあるので、早期発見、早期治療が大切です。
発生要因は、成長期、練習量、準備運動不足、運動の正確性、先天的形態異常、靴などの道具、グランドなどの運動環境と様々です。
靱帯断裂、骨折などの構造破綻を来していない以上、手術的治療が行われることは少なく、保存治療が主体となります。
当該スポーツを休止することにより、急性疼痛は緩和されますが、発生要因を解消することが再発予防において最も大切なことであり、発生要因を究明しそれを正していくことが治療となります。
すなわち、スポーツ障害治療の目的は予防医学であり、現在の痛みを解消するだけではなく、同じような痛みが再発しないようにすると共に、靱帯損傷などのスポーツ外傷を予防することが治療目的となります。

成長期のスポーツ障害

スポーツ障害の多くは小学生、中学生の成長期に発生します。それは彼らを取り巻く環境は上記発生要因のほとんどに当てはまる状況にあるからです。

(1)成長期

この時期は成長により骨が急激に伸長し、関節周囲の筋肉、靱帯が引っ張られ、運動をしていなくてもこれら軟部組織に過伸展力が加わっています。成長期の子供は大人と違い関節周囲の骨には骨端線という脆弱な組織があります。そこに付着する軟部組織の過伸展力は骨端線離開という骨の障害を引き起こすこともあります。 

(2)練習量

クラブ、部活動が始まり、運動が『かけっこ』からスポーツへと進化し、チームとしての勝ち負けが意識付けられ、練習量過多に陥りがちです。

(3)準備運動不足

限られた練習時間の中では勝負にこだわった練習が優先され、ストレッチなどの準備運動は軽視される傾向にあります。

(4)運動の正確性

成長期という特殊な状況にあることを正しく認識している指導者は少なく、小学生に腕立て伏せなどの筋力トレーニングを導入するなど、間違った指導も行われています。また、正しいフォームを指導することなく、結果が出ればそれで良しとされる場合も多く見られ、間違ったフォームでのスポーツは特定の関節の使いすぎを生じ、様々なスポーツ障害の要因となります。

治療について

先に述べたように、痛みの強い急性期には休止が必要です。
また、筋肉疲労が主要因である場合には鍼治療、電気治療なども効果的で、トップアスリートの世界では良く用いられております。
当院ではスポーツの専門知識を持った鍼灸師による鍼治療も行っております。
痛みが軽減してきた頃、また、最初から痛みが軽度の場合は発生要因の解決治療に取りかかります。

成長期の子供では前屈などで全身の弛緩性をチェックし、不足しているようであればストレッチングを実践指導し、関節にかかる過伸展力を軽減させると共に、ストレッチの重要性を認識させ、準備運動不足を解消させます。
肘を痛めた野球少年の場合、タオルを使ってシャドウピッチングを行わせ、肘だけを使いすぎた間違ったフォームを正したり、膝が痛いサッカー少年では、実際にサッカーボールを蹴らせ、軸足の位置、重心の位置などを正し、膝が痛くならない正しい運動方法を身に付けさせます。
また、靴をチェックし、大きさが合っているか、靴の減り方に左右差がないか、走る場所は土の上か、アスファルトの上かなど、道具、環境についても改善されるよう指導を行います。
さらに練習メニューの中で、やっていいものと、やってはいけないものを選別し、練習量、練習内容についても指導を行います。

スポーツ障害においてはスポーツの休止は治療の準備段階であり、そこから始まるストレッチ、トレーニング、運動指導が治療の主体となるのです。